―― 痛みと炎症・腸内環境のしくみ ――
「食事が痛みに関係する」とはよく言われますが、なぜなのでしょうか?
近年、慢性的な痛みには「炎症」「神経系」「腸内環境」が深く関わることがわかってきています。今回は、食事→炎症→痛みという流れのメカニズムを整理して解説します。
① 炎症を介したルート
食事に含まれる成分は、体内の炎症レベルに影響を与えます。
超加工食品や糖質・飽和脂肪酸に偏った食事、抗酸化物質の少ない食事が続くと、血液中の炎症マーカー(CRPなど)が上昇しやすくなることが報告されています。
炎症が長期間続くと、末梢神経だけでなく、脳や脊髄でも「神経炎症」が起こります。これにより神経が過敏になり、「本来ならそこまで痛くない刺激でも痛みを感じやすい状態(中枢感作)」に関与すると考えられています。
慢性痛は単なる“患部の問題”ではなく、神経系全体の感受性変化が関わっているケースも少なくありません。
② 腸内環境(腸脳軸)を介したルート
腸には数百兆個もの腸内細菌が存在し、免疫や神経機能にも影響しています。
一部の慢性痛疾患では、腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れが関連している可能性が報告されています。特に、過剰な糖質や超加工食品中心の食事は、腸内環境の悪化や腸の炎症反応に関与すると考えられています。
腸で起きた炎症や免疫反応は、
- 迷走神経
- 免疫系
- 炎症性サイトカイン
- 腸内細菌が産生する代謝物
などを介して脳機能へ影響を与えることが知られています。
この「腸脳軸」の異常が、神経炎症や中枢感作に関与し、慢性的な痛みを増悪させる可能性が示唆されています。
③ 特定の栄養素の過不足を介したルート
神経系が正常に働くためには、さまざまな栄養素が必要です。
オメガ6脂肪酸(過剰摂取)
オメガ6系脂肪酸は本来、身体に必要な必須脂肪酸です。
ただし、過剰摂取やオメガ3とのバランス悪化によって、炎症性物質(プロスタグランジンなど)の産生が増え、炎症や痛みの感受性に影響する可能性があります。
オメガ3脂肪酸(不足)
オメガ3脂肪酸には炎症反応を調整する作用があり、慢性炎症の抑制に関与すると考えられています。
魚類に多く含まれるEPA・DHAの摂取は、慢性痛改善との関連も研究されています。
マグネシウム(不足)
マグネシウムは神経興奮の調整に関与しており、NMDA受容体活性の調節にも関わっています。
不足すると神経が過敏になり、痛みの感受性上昇につながる可能性があります。
トリプトファン(不足)
トリプトファンは、セロトニンの材料となるアミノ酸です。
セロトニンは気分だけでなく、痛みの抑制系にも関与しています。そのため、トリプトファン不足は痛み調節機能へ影響する可能性があります。
慢性的な高血糖
高血糖状態が続くと、酸化ストレスや慢性炎症が増加し、末梢神経へ悪影響を与えます。
特に糖尿病では、神経障害性疼痛との関連がよく知られています。
「痛み→食事」も起こる
興味深いことに、この関係は一方通行ではありません。
慢性的な痛みでは、脳の報酬系(ドーパミン系)の変化が起こることが報告されており、甘いものや高脂肪食を強く求めやすくなる可能性があります。
つまり、
- 痛みがある
- 食事が乱れる
- 炎症が増える
- さらに痛みが悪化する
という悪循環が起こることがあります。
慢性痛と肥満に共通するメカニズムが注目されているのも、このためです。
まとめ
食事が慢性痛に影響する主な経路として、次のようなものが考えられています。
- 炎症 → 神経炎症 → 中枢感作
- 腸内環境の乱れ → 腸脳軸 → 神経系への影響
- 栄養素の不足・過剰 → 神経機能変化
- 高血糖 → 酸化ストレス → 神経障害
もちろん、食事だけで慢性痛が治るわけではありません。
しかし、慢性痛は「運動」「睡眠」「ストレス」「心理面」「栄養」など、多角的な要素が絡み合う疾患です。
その中で食事も、“身体の炎症レベル”や“神経の過敏性”に関わる重要な要素のひとつと考えられています。
無理のない範囲で食習慣を整えることは、慢性痛管理の土台づくりにつながるかもしれません。
【参考文献】
- Elma et al. Brazilian Journal of Physical Therapy. 2024.



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