治療点と刺鍼手技の実際
リハりん|訪問リハビリ・鍼灸 赤羽エリア
はじめに
坐骨神経痛は、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、あるいは梨状筋症候群など複数の病態を背景として生じる症候群です。お尻から太もも・ふくらはぎにかけての放散痛や引きつれ感が特徴的であり、日常生活動作に大きく影響します。
鍼灸治療ではこれらの症状に対し、坐骨神経への直接刺鍼をはじめとする複数の治療点を組み合わせることで、疼痛緩和と機能改善を目指します。本稿では、臨床で使用される主要な治療点と、刺鍼の角度・深さ・手技のポイントを解説します。
1. 坐骨神経痛の主要治療点
① 坐骨神経点(A点)――新秩辺
坐骨神経痛に対する鍼灸治療の中心的治療点がA点(坐骨神経点)です。坂本はこの部位を「新秩辺(しんちっぺ)」と命名し、簡便かつ的中率が高い刺鍼点として紹介しています。
| 【取穴法】 上後腸骨棘(PSIS)と大腿骨大転子を結ぶ線の中点から、 その線と直角方向に3〜4 cm(目安4 cm)下方の点 |
刺鍼によって梨状筋に絞扼された坐骨神経に直接アプローチし、疼痛の緩和を図ります。刺入時に足趾先まで「響き(得気)」が伝わることが、神経を的確に捉えたサインとなります。
②腰椎・脊柱周辺の治療点
腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症など、腰椎由来の神経根症状が疑われる場合は、傍脊柱部への刺鍼が有効とされています。
- 兪穴・夾脊(きょうせき)・棘間傍点
- 障害椎間レベルを中心に、反応点を触察して正確に刺鍼する。
- 箱温灸
- 腰仙部全体を温める補助的手技として、傍脊柱部刺鍼と並行して使用される。
③特殊な反応点(前処置)
大巨:
臍下2寸・外方2寸の右下腹部。腹臥位での治療前に置鍼し、腹壁筋緊張を緩める目的で使用される。
治療点一覧
| 経穴・治療点 | 部位 | 主な適応・目的 |
| 坐骨神経点(A点) 新秩辺 | PSIS〜大転子中点から 直角に3〜4cm下方 | 梨状筋絞扼型の坐骨神経痛 足趾先への「響き」を指標とする |
| 環跳(かんちょう) | 大転子後上方の殿部 | 坐骨神経痛全般の主要治療点 |
| 上髎・次髎 | 仙骨部の後仙骨孔 | 殿部の緊張・痛みの緩和 |
| 委中(いちゅう) | 膝窩中央 | 下肢後面の疼痛・引きつれ |
| 小野寺殿点 | 腸骨稜上縁中央から2横指下方の殿筋内 | 腰痛・坐骨神経痛の補助点 |
| 股門(こもん) | 大腿二頭筋部 | 大腿後面の引きつれ |
| 傍脊柱部 (兪穴・夾脊・棘間傍点) | 障害椎間レベルの脊柱旁 | 腰椎由来の神経根症状 |
| 大巨(だいこ) | 臍下2寸・外方2寸(右下腹部) | 腹壁筋緊張の緩和(前処置) |
2. 坐骨神経点(A点)の刺鍼手技
① 刺入方向
皮膚面に対して直刺(垂直刺入)で行います。斜刺・横刺は行いません。
② 刺入深度の指標
刺入深度を「〇〇 cm」と固定することはせず、坐骨神経に到達したかどうかを「響き(得気)」で判断します。
| 【響きの確認】 刺鍼時に足趾先まで響きが伝わった場合=神経を的確に捉えた状態 響きが得られない場合=一度抜鍼し、刺入角度を修正してから再刺鍼する |
③ 使用鍼の目安
患者の体格・殿筋の発達状況に応じて鍼長を使い分けます。
| 項目 | 内容 |
| 刺入方向 | 直刺(皮膚面に対して垂直) |
| 刺入深度の指標 | 坐骨神経への到達(足趾先への「響き」) |
| 一般的な鍼長 | 60mm(2寸)・24号ステンレス鍼 |
| 殿筋発達例 | 90mm(3寸)・34号ステンレス鍼 |
| 押手 | 強く置くことが必須 |
| 響き不達時の対処 | 抜鍼後に刺入角度を修正して再刺鍼 |
3. 治療点の選択方針
坐骨神経痛の鍼灸治療では、一律に全治療点を使用するのではなく、患者の症状に応じて取穴を組み立てることが重要です。
| 【症状別の選穴の考え方】 ① 殿部〜大腿後面の痛みが主訴:A点(新秩辺)+環跳を基本とする ②下腿・足部への放散痛が強い:委中・股門を加える ③仙腸関節・殿上部の緊張:上髎・次髎・小野寺殿点を加える ④腰椎由来の神経根症状:傍脊柱部(兪穴・夾脊・棘間傍点)+箱温灸 腹部緊張が著明:大巨への前処置置鍼を優先する |
いずれの治療点においても、「響きが得られる深さ・角度」での刺鍼を目安とし、患者の体格や筋肉量に合わせて鍼長を適宜変更することが推奨されます。
まとめ
坐骨神経痛に対する鍼灸治療の要点を以下に整理します。
- 中心的な治療点は坐骨神経点(A点=新秩辺)。PSISと大転子の中点から直角に3〜4 cm下方の点に直刺する。
- 刺入深度は「足趾先への響き」で判断する。固定の深さではなく神経到達を指標とする。
- 鍼長は通常60 mm(2寸)を使用し、殿筋が発達した患者には90 mm(3寸)を用いる。
- 押手を強く置くことが刺鍼精度を高める基本手技である。
- 環跳・上髎・次髎・委中などを症状に応じて組み合わせ、腰椎由来例には傍脊柱部への刺鍼と箱温灸を併用する。
坐骨神経痛は原因疾患が多岐にわたるため、整形外科的評価と並行しながら、鍼灸的アプローチを組み合わせることが重要です。各症例において「響き」を確認しながら的確な刺鍼を実践することが、良好な治療成績につながります。
リハりん | 訪問リハビリ・鍼灸(理学療法士・鍼灸師)
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