「ちょっとかがんだだけなのに…」
重いものを持ち上げた瞬間、あるいは落としたものを拾おうとしたその瞬間——突然の激痛で動けなくなる。これがギックリ腰です。
原因として「腰の筋肉を痛めた」と説明されることが多いのですが、実際にどの筋肉が関わっているかは、意外と詳しく調べられないまま終わることがほとんどです。
その中でも特に「見落とされやすい筋肉」として近年注目されているのが、腰方形筋(こしほうけいきん)です。
腰方形筋ってどこにある?
腰方形筋は、骨盤と肋骨の間、腰の深いところにある筋肉です。背骨の両側に1本ずつあります。
普段の生活では、立つ・座る・歩くといったあらゆる動作のときにこの筋肉が働いています。また、深呼吸や咳・くしゃみのときにも収縮します。これが「ギックリ腰の後はくしゃみするたびに激痛が走る」という現象の理由の一つです。
体の奥深くに位置しているため、外から触れることがほとんどできません。そのため見た目にも症状にも現れにくく、診察でも見落とされやすいのです。
なぜ腰方形筋がギックリ腰に関わるのか
前かがみのときに最も負担がかかる
荷物を持ち上げるときや床のものを拾うとき、腰は前に曲がった状態で大きな力を受けます。このとき腰方形筋は「引き伸ばされながら、同時に強く縮もうとする」という、最も筋肉にとって負担の大きい状態になります。
普段から腹筋や臀部の筋肉が十分に働いていない場合、その分の負担が腰方形筋に集中しやすくなります。
痛み→緊張→痛みの悪循環
腰方形筋に強いストレスがかかると、筋肉が防御反応として固まります(スパズム)。すると今度はその緊張自体が新たな痛みを生み出します。これが「動けば動くほど痛い」「翌朝ベッドから起き上がれない」という状態の背景にある悪循環です。
2025年に発表された研究報告(Vadgama et al.)では、強い痛み止めを使っても改善しなかった腰痛の患者に、超音波ガイドで腰方形筋に直接処置を行ったところ、30分後には痛みが10段階で8から2に下がり、翌日には歩いて退院できたという事例が報告されています。この結果は、腰方形筋の悪循環を断ち切ることの効果を示すものとして注目されています。
トリガーポイントという「痛みのスイッチ」
慢性的な疲労や姿勢の悪さが続くと、腰方形筋の中に「トリガーポイント」と呼ばれる特定の圧痛点が生まれることがあります。このポイントが刺激されると、腰だけでなく臀部・股関節・鼠径部(足の付け根)にまで痛みが広がることがあります。
「腰というより、お尻や股関節が痛い」という訴えの場合でも、実は腰方形筋が原因だったというケースは少なくありません。
慢性化させないために大切なこと
ギックリ腰を繰り返していたり、なかなか改善しない腰痛が続いている方には、もう一つ知っておいてほしいことがあります。
2025年にスペインで行われた研究(López-Redondo et al.)では、慢性腰痛の患者76名の腰方形筋を超音波で計測したところ、筋肉が柔らかくなっているほど痛みが強く、生活の質も低いという結果が出ました。
「筋肉が柔らかいほうが良いのでは?」と思われるかもしれませんが、ここでいう「柔らかさ」は、筋肉が正常に使われなくなって弱ってしまった状態を意味します。脊椎を支える役割を果たせなくなり、痛みが長引くと考えられています。
つまり腰方形筋は、急性期の「固まって痛い」状態から、慢性期の「弱くなって支えられない」状態まで、腰痛の様々な段階に関与している可能性があるのです。
どんなサインに気をつければいいか
以下のような症状がある場合、腰方形筋の関与を疑う一つのきっかけになります。
- くしゃみや咳のたびに腰に強い痛みが走る
- 朝、ベッドから起き上がる際に強い痛みがある
- 腰だけでなく、臀部・股関節・脇腹にも痛みが広がっている
- 同じ側の腰ばかり繰り返し痛める
- 長時間同じ姿勢(特に座り仕事)の後に痛みが出やすい
リハりんでのアプローチ
リハりんでは、身体の評価をもとに腰方形筋が関与しているかどうかを丁寧に確認したうえで、以下のようなアプローチを組み合わせて対応しています。
鍼灸:腰方形筋の深部にあるトリガーポイントや緊張した筋線維に対して直接アプローチします。痛みの悪循環を早期に断ち切ることを目的としています。
リハビリテーション:腰方形筋への過剰な負担を減らすために、腹部・殿部を含めた体幹全体の筋肉の使い方を改善します。弱くなった腰方形筋を適切に回復させるための運動指導も行います。
姿勢・動作指導:片側に体重をかける習慣(足を組む・片足重心)は腰方形筋への負担を増やします。日常動作のクセを見直すことが再発予防につながります。
まとめ
ギックリ腰の原因は一つではありませんが、腰方形筋はその関与が疑われる筋肉の一つとして、近年の研究でも注目されています。深部にあるため診断されにくく、放置すると慢性腰痛への移行につながる可能性もあります。
「繰り返すギックリ腰」「なかなか改善しない腰痛」でお困りの方は、一度ご相談ください。
参考文献
- Vadgama J, Ahmad S, Thottungal A, Naeem S. Anterior Quadratus Lumborum Block: A Regional Anaesthetic Technique for the Management of Acute Back Pain in the Emergency Department. Cureus. 2025;17(11):e96504. DOI: 10.7759/cureus.96504
- López-Redondo M, Vicente-Campos D, Álvarez-González J, et al. Association of Quadratus Lumborum Muscle Stiffness with Chronic Low Back Pain Features: An Observational Study. Medicina (Kaunas). 2025;61(2):270. DOI: 10.3390/medicina61020270
- Yıldırım Uslu E. Effect of Quadratus Lumborum Block in Patients With Acute-Subacute Unilateral Lumbar Strain. Cureus. 2024;16(5):e61014. DOI: 10.7759/cureus.61014
- Sirh SJ, Sirh SW, Mun HY, Sirh HM. Importance of Quadratus Lumborum Muscle Trigger Point Injection and Prolotherapy Technique for Lower Back and Buttock Pain. Frontiers in Pain Research. 2022;3:997645. DOI: 10.3389/fpain.2022.997645
- Yi KH, Lee KL, Lee JH, Hu HW, Kim HJ. Guidance to Trigger Point Injection for Treating Myofascial Pain Syndrome: Intramuscular Neural Distribution of the Quadratus Lumborum. Clinical Anatomy. 2022;35:1100–1106. DOI: 10.1002/ca.23918



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