| 〜道具不要・在宅でもできる低重心トレーニングのエビデンス〜 |
📋 参考文献|Zhang L et al. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation (2024) 16:163
はじめに
脳卒中後の片麻痺患者さんにとって、「転倒しないこと」と「バランスを取り戻すこと」は、日常生活を再建するうえで最も重要な課題のひとつです。
病院でのリハビリが終わった後も、在宅でできる効果的な訓練方法を求めているご本人・ご家族は多くいます。
今回ご紹介する「膝立ち訓練(Kneeling Training)」は、特別な機器を一切必要とせず、フロアマット一枚で実施できるシンプルなトレーニングです。2024年に発表されたランダム化比較試験(RCT)の結果から、その安全性とバランス改善効果が初めて科学的に証明されました。
膝立ち訓練とは?
膝立ち訓練とは、両膝をついた姿勢(膝立ち位)で体幹を地面に垂直に保ち、重心を前後左右に移動させるトレーニングです。
| 膝立ち訓練の基本姿勢 |
| フロアマット上で両膝をついて立ち、体幹を直立に保った状態で実施します。セラピストは患側の肘関節と骨盤をサポートしながら、重心移動(前→右→後→左の順)を誘導します。 |
この姿勢の特徴は「重心が通常の立位より低い」こと。これにより転倒リスクを下げながら、バランス訓練が行えます。
研究の概要
対象者と方法
| 項目 | 内容 |
| 研究デザイン | ランダム化比較試験(RCT) |
| 対象 | 脳卒中による片麻痺患者 67名(発症3ヶ月以内、30〜70歳) |
| 介入期間 | 4週間、週6回、1回30分 |
| 膝立ち訓練群 | 33名(完遂31名) 膝立ちによる重心移動訓練 |
| 従来リハ群 | 34名(完遂31名) トレッドミル歩行訓練 |
| 評価時点 | 介入前(T0)・2週後(T1)・4週後(T2) |
| 主要評価指標 | FMA-LE(下肢運動機能)・BBS(バランス)・歩行分析(6MWT) |
研究の結果
①バランス(BBS):膝立ち訓練群が有意に改善
両群ともにバランスは改善しましたが、BBSスコアの改善幅は膝立ち訓練群が統計的に有意に大きい結果でした(p=0.048)。
| 評価指標 | 膝立ち訓練群(KNT) | 従来リハ群(CVR) |
| BBS(バランス) | 26.0 → 31.3(2週)→ 38.4(4週) | 20.9 → 27.5(2週)→ 34.5(4週) |
| FMA-LE(運動機能) | 16.1 → 19.2(2週)→ 23.4(4週) | 16.6 → 19.7(2週)→ 23.6(4週) |
| 麻痺側ステップ長(T2) | 38.7 cm | 32.1 cm(p=0.05) |
※BBS:Berg Balance Scale(0〜56点、高いほどバランス良好)
※FMA-LE:Fugl-Meyer Assessment下肢(0〜34点、高いほど運動機能良好)
②下肢運動機能(FMA-LE):両群に差なし
FMA-LEスコアは両群ともに改善しましたが、群間に有意差は認められませんでした(p=0.768)。
| ポイント |
| 膝立ち訓練は「バランス能力の改善」には優れた効果を発揮しますが、「麻痺そのものの回復(運動機能)」への直接効果は従来の歩行訓練と同等です。バランスと歩行機能を組み合わせて評価することが重要です。 |
③歩行分析:麻痺側ステップ長に差の傾向
4週後(T2)の麻痺側ステップ長において、膝立ち訓練群(38.7cm)が従来リハ群(32.1cm)より長い傾向が示されました(p=0.05)。他の歩行パラメータ(歩行速度、股膝関節角度、重心上下移動)に有意差は見られませんでした。
④安全性:膝・腰への問題なし
4週間のプログラムを通じて、膝損傷・転倒・筋緊張の増大・筋疲労などの有害事象は一切報告されませんでした。脱落2名は腰痛の訴えによるものでしたが、訓練に関連する重篤な問題は発生していません。
なぜ効果があるのか?〜メカニズムを考える〜
① 近位筋(体幹・股関節周囲筋)の賦活
膝立ち位という非生理的な姿勢を保つためには、通常の立位以上に体幹筋群・股関節安定筋の活動が必要です。論文では以下の筋群への効果が示唆されています:
● 脊柱起立筋・体幹筋群
● 半腱様筋(Semitendinosus)
● 中殿筋(Gluteus medius)
これらの「歩行関連近位筋」は、バランス制御や外乱時の姿勢反応においても中心的な役割を担います。
② 神経可塑性の促進
通常歩行と比べて膝立ち歩行では重心の左右移動距離が大きくなります。この「より難しいバランス課題」に適応するため、前庭・視覚・固有受容覚の統合処理が高まり、脳の可塑的変化(皮質厚の増大など)が促される可能性が示唆されています。
③ なぜ歩行機能への直接効果は限定的なのか?
膝立ち位では足底・足首からの固有受容感覚入力が遮断されます。このため、通常歩行で重要な「遠位筋の動員パターン」は十分に訓練されず、FMA-LEや歩行速度への影響が限定的になったと考えられます。
訪問リハビリへの臨床的示唆
この研究の結果は、訪問リハビリや地域リハビリの現場でそのまま応用できる知見を多く含んでいます。
| 項目 | 内容 |
| 実施場所 | 自宅・施設問わず実施可能(フロアマットのみ) |
| 適応の目安 | Brunnstromステージ Ⅲ以上(患側で介助ありの膝立ち可能なレベル) |
| 禁忌・注意 | 人工膝関節置換術後、膝に強い痛みや制限のある方は対象外。膝サポーターの使用を推奨 |
| 目標設定 | BBSの改善を主な指標に設定すると効果の可視化がしやすい |
| 組み合わせ | 歩行機能(FMA-LE)向上には歩行訓練との併用が推奨される |
| 頻度・時間 | 週6回・30分が研究プロトコル。訪問頻度に合わせ自主訓練で補完 |
ご家族・ご本人へ:自宅での膝立ち訓練について
| この訓練でできること |
| 膝立ち訓練は、転倒への恐怖感を軽減しながら、徐々にバランス能力を高めていける訓練です。体を鍛える前に「安全に姿勢を保つ感覚」を取り戻すことが目的です。 |
【訓練を始める前に必ず確認すること】
● 担当のセラピスト・医師に相談してから開始する
● 膝に強い痛みや腫れがある場合は実施しない
● 必ず膝サポーターを着用する
● 転倒しても怪我が少ない柔らかいフロアマット(厚さ2cm以上)を使用する
● 一人での練習は危険なため、必ず誰かのそばで実施する
| リハりん|訪問リハビリ・訪問はり灸 北区赤羽西2丁目対応エリア:北区・板橋区 riharin.kk@gmail.com |



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