原因・リスクとリハビリでできる予防のポイント
はじめに
脳卒中(脳梗塞・脳出血)で片側の手足に麻痺が残ると、肩の関節がずれてしまう「肩関節亜脱臼(かたかんせつあだっきゅう)」が起こりやすくなります。
亜脱臼とは、関節が完全に外れてしまう脱臼とは違い、「少しだけずれた状態」のことです。見た目ではわかりにくいこともありますが、放置すると肩の痛みや回復の妨げにつながる可能性があります。
この記事では、最新の研究(2025年、Frontiers in Neurology誌掲載)をもとに、肩関節亜脱臼が起こりやすい原因とリスク、そして早期から取り組める予防のポイントをわかりやすくお伝えします。
なぜ脳卒中後に肩がずれてしまうのか
肩関節は人体で最も大きく、動きの広い関節です。その安定性は主に「筋肉の力」によって保たれています。
脳卒中後の麻痺(まひ)期間中、肩の周りの筋肉—特に棘上筋(きょくじょうきん)や三角筋—が正常に働かなくなると、腕の重みを支えられなくなり、上腕骨の頭が関節からずれやすくなります。
研究によれば、脳卒中後の入院患者の17〜64%に肩関節亜脱臼が見られ、特に発症後3週間以内に多く起こるとされています。
どんな人に起こりやすい?3つの主なリスク因子
128名の脳卒中患者を対象にした研究では、超音波検査(エコー検査)を使って肩のずれの程度と筋肉の厚さを正確に測定し、以下の3つが独立したリスク因子として明らかになりました。
① 棘上筋(きょくじょうきん)が薄くなっている
棘上筋は肩の「ローテーターカフ(回旋筋腱板)」を構成する筋肉のひとつで、上腕骨頭を関節窩(かんせつか)に引き付けて安定させる役割を担っています。
研究では、麻痺側の棘上筋の厚さが薄いほど、肩のずれ(A-GT距離)が大きくなることが確認されました(相関係数 r = -0.474)。
棘上筋が1cm薄くなるごとに、肩のずれが約0.36cm大きくなると推計されています。
② 脳出血(脳梗塞よりもリスクが高い)
脳出血の患者さんは、脳梗塞の患者さんと比べて肩関節亜脱臼が起こりやすいことが分かりました。研究では脳出血のほうが、肩のずれが平均0.38cm大きいという結果でした。
これは、脳出血後のほうが筋肉の回復が遅く、固有感覚(体の位置を感じる力)の障害も強い傾向があるためと考えられています。
③ ブルンストローム・ステージが低い(麻痺が強い)
ブルンストローム・ステージ(BRS)は、脳卒中後の運動回復の段階を評価するスケールで、ステージ1(完全な弛緩性麻痺)からステージ6(正常)まであります。
研究では、ステージが1段階上がるごとに肩のずれが0.10cm小さくなるという関係が確認されました。つまり、麻痺が強い時期ほど亜脱臼のリスクが高くなります。
ステージ3〜4(痙性が出て、ある程度随意運動が可能な段階)になると、肩のずれがステージ1より有意に小さくなることも確認されています。
超音波検査(エコー)で早期に発見できる
これまで肩の亜脱臼の評価は、触診(手で触って確認する方法)やX線検査が主流でしたが、触診では軽度のずれを見逃すことがあり、X線は放射線被ばくのリスクがあります。
超音波検査は、痛みや被ばくなしに「肩峰−大結節間距離(A-GT距離)」と「棘上筋の厚さ」を正確に測定できるため、亜脱臼の早期発見・モニタリングに非常に有用です。
本研究は、棘上筋の厚さを超音波で測ることが、肩関節亜脱臼の新しい予測指標になり得ると結論づけています。
リハビリでできる予防のポイント
一度亜脱臼が起きると、神経・運動機能の回復の妨げになる可能性があります。だからこそ、早期からの予防が大切です。
- 正しい肢位(ポジショニング)の徹底:麻痺した腕を適切な位置に保ち、重力による引っ張りを防ぎます。
- 肩サポーター・スリングの活用:座位や立位時に腕の重みを支え、ずれを防ぐ補助具を使用します(ただし根拠はまだ限定的)。
- 電気刺激(NMES・FES):棘上筋・後部三角筋に電気刺激を行い、麻痺した筋肉を活性化。急性期の予防に有効とされています。
- 丁寧なアシスト:麻痺側の腕を無理に引っ張らない。移乗や更衣の際には必ず腕を支えます。
- 運動回復を促すリハビリ:ブルンストローム・ステージを上げることが亜脱臼リスクの低下に直結します。
まとめ
| 主なリスク | 棘上筋の菲薄化・脳出血・ブルンストロームステージ低値(強い麻痺) |
| 検査方法 | 超音波検査(A-GT距離・棘上筋厚の測定)が有用 |
| 予防・対応 | ポジショニング・電気刺激・スリング活用・早期リハビリによる運動回復 |
肩の亜脱臼は、発症早期に適切なケアとリハビリに取り組むことで、発生リスクを下げることができます。麻痺側の腕のポジションが気になる方、肩に違和感を感じている方は、ぜひ担当のリハビリスタッフにご相談ください。
参考文献
Qu Y, et al. Observation of risk factors for shoulder subluxation after stroke using ultrasonography to measure thickness of the supraspinatus muscle: a cross-sectional study. Front. Neurol. 16:1532004. (2025)
当記事は医療情報の提供を目的としており、個別の診療・治療方針の決定には担当医・療法士にご相談ください。



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