ご家族に知ってほしい「体幹リハビリ」最新の研究
執筆:リハりん(訪問リハビリ・訪問鍼灸)
「体幹」って何?なぜ大切なの?
「体幹」とは、お腹・背中・腰まわりの筋肉のことです。手足を動かすとき、立つとき、座るとき——すべての動作は体幹の安定があってはじめて成り立ちます。
木に例えると、手足は「枝」で、体幹は「幹」。幹がぐらついていたら、枝はうまく動かせません。
脳卒中後の患者さんは、麻痺側だけでなく体の中心(体幹)の筋力・バランスも低下しています。実は、入院早期の体幹の状態が、6ヶ月後の日常生活の自立度を最もよく予測することが研究で示されています。
「脳への電気刺激(tDCS)」って何?
tDCS(経頭蓋直流電気刺激)とは、頭皮の上から非常に弱い電流(2ミリアンペア)を流す治療法です。痛みはなく、刺激中は軽いチクチク感を感じる程度です。
脳卒中が起きると、脳の「動かしたい」という指令を出す部分(運動野)の活動が低下します。tDCSはこの部分に穏やかな電気を流すことで、脳の活動を高めます。
電気刺激で何が起きる?
- 脳の運動野が活性化され、筋肉への指令が伝わりやすくなる
- その後に行う運動の効果が高まる(「脳を準備運動させる」イメージ)
- 弱くなった神経の信号が閾値を超えやすくなり、神経回路が強化されやすくなる
重要なのは「電気刺激だけ」では意味がないこと。運動と同時に行うことで、はじめて相乗効果が生まれます。
どんな研究だったの?
2026年に発表されたこの研究では、脳卒中発症から6ヶ月以上経過した慢性期の患者さん60名が参加しました。
2つのグループで比較
- Aグループ(30名):体幹の運動+脳への電気刺激(tDCS)を同時に実施
- Bグループ(30名):体幹の運動のみ
どちらも週3回・12週間(3ヶ月)続けました。運動の内容は同じで、tDCSがあるかないかだけが違います。
体幹トレーニングの具体的な内容
- 椅子に座った状態で、上体を前後左右にゆっくり動かす
- 仰向けで腰を持ち上げるブリッジ運動(お尻・お腹の筋肉を使う)
- バランスボールやクッションの上で、重心を移動させるバランス練習
3ヶ月後、何が変わった?
両グループとも改善しましたが、電気刺激ありのグループが大きく上回りました。
| 何が改善した? | 電気刺激あり群 | 運動のみ群 | 効果の大きさ |
| 体幹の安定感 | +2.80点 | +1.83点 | 大きい |
| 座る・立つ姿勢 | +4.01点 | +1.31点 | 大きい |
| バランス全般 | +6.64点 | +2.21点 | 非常に大きい |
| 日常生活の自立度 | +9.20点 | +1.96点 | 非常に大きい |
電気刺激+運動のグループは、運動のみのグループと比べて、バランスや日常生活の自立度が50%以上大きく改善しました(論文著者の算出より)。
体幹が安定すると、日常生活のどこが変わるの?
統計分析の結果、「体幹の安定感がどれだけ改善したか」が「日常生活の自立度がどれだけ上がったか」を最もよく説明することがわかりました(58%を説明)。
これは感覚的にも納得できます。
- 食事:座位が安定しないとスプーンを口に運べない
- 移乗・トイレ:立ち上がりには体幹の踏ん張りが必要
- 更衣:腕を上げたとき体が倒れないよう体幹が支える
- 歩行:一歩踏み出すたびに、体幹が左右のぐらつきを抑えている
手や足のリハビリも大切ですが、その土台となる「幹」を先に整えることが、回復を加速させる鍵かもしれません。
ご家族さまができること
体幹トレーニングを日常に取り入れる
この研究で使われた体幹運動は、特別な器具がなくても自宅で行えるものがほとんどです。訪問リハビリのセラピストと相談しながら、毎日の生活の中に少しずつ取り入れていきましょう。
「脳を活性化する環境」をつくる
tDCS機器は家庭では使えませんが、脳を活性化する工夫は日常の中でできます。
- 新しい感覚刺激(足の裏のマッサージ・異なる素材に触れるなど)
- 少し難しいと感じる課題に挑戦すること(簡単すぎる運動は脳を鍛えない)
- 「できた」という達成感が脳の報酬系を活性化し、神経回路の強化を助ける
焦らず続けることが大切
この研究は3ヶ月間の取り組みで大きな改善を示しました。脳卒中後の回復は、継続的なアプローチが何より重要です。「今日も少しやってみよう」という積み重ねが、半年後・1年後の姿を変えていきます。
まとめ
✅ 体幹(お腹・背中まわりの筋肉)は、すべての動作の土台 ✅ 体幹の状態は、6ヶ月後の日常生活の自立度を予測する ✅ 体幹トレーニング+脳への電気刺激を組み合わせると、運動単独よりも大きな改善が得られた ✅ 在宅でもできる体幹運動を、毎日の生活に取り入れていきましょう
【参考文献】El-Sherbini et al. (2026). Unlocking trunk potential after stroke: a novel approach combining transcranial direct current stimulation and core stability exercise. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 23, 128.
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